2001年6月3日 日光2時間耐久レース

06.ペースカー


 しばらくして転倒者が出たためペースカーが入り、必然的にトップとの差がつまる。20数台が一列に並んでスロー走行。またまたホームストレートを通過する際に「[10]がトップだ、抜けるぞ!行け!ぶっころせ!」と俺がカツを入れる。そしてコースクリア。うまく周回遅れをかわしたわきちは、トップ[10]の真後ろにまでせまり、そして抜き去る。
「うおーーーーーーーーーわきちさああああああん、トップだあああああああ」
恒例シャインの絶叫。他の皆も狂ったように叫びだす。
ただ誰にも言わなかったが、その[10]ST仕様に乗っているライダーは、実は4年前に全日本SBクラスに出場していたライダーなのだった。俺がモリワキで走っていた時代にお客さんでVTR−Fに乗っていた人物である。仮にそういうことを告げると《あの人はレーサーだから》といういい訳を人は簡単に作るものなので、気付いていたが俺はそれを言わなかった。結果、わきちはR6でまさしく水を得た魚のようにトップに浮上するのである。
しかしさすがにその人物も意地をかけてペースアップ。再度わきちを抜き去って、トップに返り咲く。わきちは少々バテた様子で、2位キープへとペースダウン。ベストで44秒台、周回遅れに絡んで46秒台というペースで周回する。
一方カイはこともあろうか、ふるーいVF1000(かな?)と本気バトル。せっつかれ、抜かれてしまう。ポジションは4位。トップ[10]との差は半周以上ありこのままでは勝ちを狙うにはかなり厳しい。
ダイちゃんは6位あたりを走行している。カイとの差はつかず離れずでポジションキープペース。
スタートから約40分が経過。一回目のライダーチェンジの時間だ。しかしここでまた転倒者出たためトップとの差が一気になくなる。
つまり、チャンスが訪れる。
「ナンシー、そろそろピットサイン出さないと?」
サインマントリノが不安げに言う。いやいや待て。このままトップがピットインしてわきちが頭に出るまで引っ張ろう。あの[10]のR600は速いけど、燃費は悪いだろうし、たぶん3人の中で一番速いのは今走ってる人間だからさ、そいつを先にピットインさせちゃえば、一気にアタマだぜ?
「ナンシー!カイさんバテテまーす!」
遠くのピットから今度はシャインの大声。トリノに説明したことと同じ内容をこちらもまた大声で説明する。
予測どおり[10]がピットイン。しばらくして[4]わきち[5]カイが1位2位という理想のポジションに。そのまま[10]との差が少し開くまで走らせてから、よし、入れようと告げ、同時に2台ピットイン。給油し、[4]わきち→マンジ[5]カイ→ワタンベへとライダーチェンジ。2台ともトップのままコースに戻る。

「あいつ速えわ、でも、もう少しいけばなんとかなる」
[10]を追いかけつづけたわきちがマシンを降りて語る。多少疲労の色は見えるがまだ疲れきってはなさそうだ。
「結構ズリズリきてる、いくとコケそう」
とVFに負けて言い訳に等しいコメントを残したカイ。しかし、カイには奇跡がある。あるかも知れない、のではない。ある、のだ。

kai.jpg

カイ選手

交代したマンジ、ワタンベはほぼ同じ49秒台ほどのペースで周回。それなりにいい走りをしているのだが、どんどん[10]に差を詰められ、残念ながら抜かれてしまう。
一方ダイちゃんと組んだ伊藤は一人気をはいて、なんと44秒台という素人にしては異常に速いペースで周回し、ライバルであるマンジR6をいとも簡単に抜き去り、ピットのタイミングなどで一時はトップに立ってしまう。走りにも迷いがなくきれいだ。ダイちゃんがほんの少しだけ見えた「勝利」の2文字に、ほくそえんでいる。スタートしてから1時間が過ぎようとしていた。